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Memento mori
 

2年前、父の頭に爆弾ができたと知ったとき、
私は祈れる全てのものに祈りました。

現実的に可能なことはすべて実現させると心に決め、
同時に、おとぎ話レベルの非現実な現実も
手に入れたいと切望しました。

「神様。どうか父の頭の中にある、そしてこれからできるであろう
爆弾を、私と私の2匹の飼い猫に小分けにして植え付けてください。
そのかわり、どうか父を助けてください」。

数々の非難も承知の上で願った、そのひとつがこれでした。

あまりにも非現実的で、
あきらかに常識的ではない。

でも、
どんなに恐ろしい病魔でも、一人じゃ抱えきれない爆弾も、
少しずつ分け合えたらどんなにいいだろう、
そんな夢物語を思い描き、
いつしかそれを信じ、
そして念じつづけました。

*****

先日、動物病院から連絡が入りました。
それは、愛猫ジジの病理検査の結果を伝えるものでした。


悪性の扁平上皮癌。

顔面にできたそれを切除するのは現実的に不可能で、
「彼女が生きている間はむろん、
私たちが生きている間にも根治の方法は見つからないと思う」。
私の顔色を考慮しながら、院長先生は
精一杯の誠意をもって説明してくださいました。
さらに「喉にも転移していることが肉眼でも見てとれた」とのこと。

これから病院にできることがあるならば、放射能照射か光治療、
免疫療法(アガリスクとかサメ軟骨などの投与)ぐらいだと。
でも、どれも根本治癒のためではなく、
確率の非常に低い延命措置に過ぎない、とのことでした。

いずれ痛みで食事が摂れなくなり衰弱死するのを
ただじっと見守り続けるしかないという現実を
即座に受け入れることは私にはできず、
そんな私の様子を察し、気遣いながら、先生は説明を続けました。
「残念ながら点滴で栄養を猫の体内に入れるのは不可能です。
それよりも猫とあなたが何を望み、どんな余生をともに送るのか、
それを第一に考え、静かに見守りつづけることも、
大切な選択のひとつなのかもしれません」。

かつて
私が念じた
爆弾。
でもそれは、
想像以上に大きく、
目を背けたくなる現実だった。

診察室を出て真っ先に目に入ったのは、
一歳の検診を受けに来たという元気な子犬とそのご家族でした。
つい先ほどまで互いに診察を待ちながら楽しく話をしていたのに、
私はもう目を合わせることができませんでした。

お金を払う手は震え、涙がどんどん溢れました。
受付の女性は敢えて私と目を合わさず、
ずっとドアの方を見ていました。
しゃくりに気づかれないようキャリーを抱きかかえ、
逃げるように病院を後にしました。

あれから、ジジの病気のことをいろいろ調べました。
セカンドオピニオンはもちろん、
僅かでも可能性があるのなら、
どんな治療も受けようと思いました。
とにかく後悔のないように手を尽くして闘おう、
そんな気持ちがありました。

*****

自分で毛繕いができなくなったジジの体を
蒸しタオルで拭いていた昨夜、
とつぜん頬の皮膚がずるりと剥け、
彼女の顔面が崩れ始めました。

恐怖で足が震えました。

すべての措置をやめれば細胞は自壊を続け、
やがて腫瘍は美しい彼女の顔を蝕んでいくでしょう。

ジジ。
私にどうしてほしい?

答えが出せない。

ただ調べるほどにわかったことは。


奇跡は、
ここに、
ない。


*****

ちょうど数日前、私は父と難波に行きました。
爆弾の現状を調べるための定期検診です。
私たち親子にとって3ヶ月に一度、必ずやってくる綱渡りの瞬間。
今回、爆弾たちは減らずとも増えることもなく
私たちは穏やかな気持ちで病院を後にしました。


爆弾は、
分配された。

ジジ。ごめん。


*****


Kicaは「夢を売る店でありたい」と私は思っています。

いま元気じゃない人もここを訪れることによって
僅かでも元気になってもらえたらいい、そう本気で思っています。

だから、たとえプライベートで悲しいことが起こっても
公にすべきではないと思っています。


夢を売るにはほど遠い、重すぎる前回の日記は
だから何度も消してしまおうと思いました。

でも、前回の日記を読んでくださった、
驚くほど多方面のたくさんの方々からさまざまな励ましをいただき、
それは私にとって何より心強く大きな力になりました。

本当にありがとうございました。
皆さんにいただいた力は、
ひとつずつ丁寧にジジに伝えていこうと思っています。



病気について調べるうえで
同じ病と闘う人たちがいかに多いかを私は知りました。
それと同時に見知らぬ方と猫の闘病日記に
励まされている自分に気づきました。
病気の治療方法やその可能性について考え、
自分の、そしてジジの人生について考えました。

考えても考えても、
完全に納得できる答えなんて出ない気もしています。
あるいは、大切なものを失ってだいぶ経ってから
納得できる答えが自然とみつかるのかもしれません。

ショップのブログで闘病日記を書くつもりなど今も毛頭ないのですが、
この日記が、同じ病と生きる人達にとって、
ほんの僅かでも参考になればと願い、
キーボードを叩いています。

*****

日曜日の今日、
院長先生に会うためにジジと病院に行きました。

病気について調べるうえで
疑問に思ったことを全てメモし、
それらを納得するまで聞きました。

先生は、いつもと変わらず真摯に、穏やかに
長い時間をかけて正直に答えてくださいました。

この病院には同じ症例の動物が多く訪れ、
先生は、幾度となく同じ宣告を繰り返していること。
どういった措置を望むのかは飼い主によってさまざまであること。
全国を飛び回ってでも最新治療の限りを尽くして
僅かな可能性に懸ける方も少なくないと知りました。
愛猫を思い、飼い主が出す答えは、そのどれもが必ず正しい。
ただ、どんな手を尽くしても、
やがて訪れる結果は同じであること。
はっきりとした言葉はなくても
先生が私に伝えようとしていることは痛いほどわかりました。


「ジジは、あとどれぐらい生きられるのでしょう?」
思いきって聞いてみました。

躊躇しながらも先生は答えてくださいました。
「たぶん2ヶ月ぐらい、でしょうか…」。

極度の人見知りで、家の外に出ようとせず、
遊びに来た友人にもほとんど顔を見せなかったジジ。
空腹のあまりに胃液を吐いても嫌いなものは口にせず、
私を何度も怒らせたわがままなジジ。
余命2ヶ月と宣告された彼女にとって
キャリーで連れ回され、受ける治療は苦痛以外の何ものでもない。

「延命措置はやめます。これからはジジが好きなものだけを与え、
できるかぎり楽しく過ごしていこうと思います」。

私がそう言う瞬間を先生はずっと待っていたように思えました。
とてもいい先生なのだと、あらためて思う。

先日の手術で歯を抜いたから
ずっとテリーヌ缶ばかり与えていたけど
これにも飽きていたようなので
ジジの好きなマグロのお刺身を買って帰りました。

患部を傷つけないよう取り付けてもらった
エリマキトカゲみたいなカラー(「エリザベスカラー」と言う)は、
不快そうだったので外しました。
きっと近い将来始まる苦痛の数々、
それを思えば今はできるかぎりストレスを取り除いてあげたい。

わがままでもなんでも、全部叶えてあげる。
今の私にできることはそれぐらいしかありません。

*****

ジジはいつも私のすぐ側にいます。
トイレにだってついてきます。

今もパソコンのすぐ横、テーブルの上で丸くなって眠っています。

*****

「Memento mori / メメント・モリ」。

「死を忘れるな」という意味のラテン語です。
明日の我が身も知れない戦乱の時代、
「食べ、飲め,そして陽気になろう。
我々は明日死ぬのだから今を楽しもう」
という気持ちを込めて、兵士たちが使った言葉です。

「生きる長さ」よりも大切なのは「生き方」。
頭では分かっていても
自分にとって絶対に必要なものを失う現実を
受け入れることはとても難しいことです。

ただただ
今を大切に。

16年、私を守りつづけてくれたジジに
「ごめんね」より「ありがとう」って心から言える日まで。
「メメント・モリ」。
元気に明日を迎えようと心に誓う。


| Posted by kica2001 | life | comments(5) | trackbacks(0) |




TARA (2009/12/07 9:35 AM)
朝から、涙がとまりませんでした。
一番悲しい検査結果となり、残念でたまりません。
でもね、永遠の命はないのです・・・・。
命は、神様が決めた時間なのです。
頭では理解をしていますよね、、やはり実際のところ心が理解するまでは、時間がかかるでしょう。
ジジちゃんが、どうして欲しいかは、、一番分かっておられるので、安心はしています。
限られた時間、、大切にしてねっ♪♪
ジジちゃんの痛みが、少しでも和らぐ事をお祈りしています・・・。
「memento mori」素敵な言葉です。

emiri (2009/12/11 11:03 PM)
時間を大事に大事に使って、ジジちゃんに接してあげてください。


かがみゆう (2009/12/14 10:54 AM)
前回の日記をも拝見させていただいてた時から、何かコメントをしたいしたいと思っていても自分の中で上手く言葉に出来ずに心の中で心配していた一人です。
私も、家族が大きい病気を持っている者がおり何度も「自分が代わって上げられたら」と思ったりしました・・・。
検査の結果は今は受け入れにくい結果だとは思いますが、これからの時間を大事に大事に使ってあげてください。
きっと、ジジちゃんにもその思いは伝わると思います。


さくら (2009/12/15 2:26 PM)
はじめまして。
涙がとまりません。
実家の母が大切にしていた猫も癌で、お星さまになってまだ数カ月です。

家族同様に過ごし、私たち姉妹の一番下の娘みたいな存在でした。
私の母も、ジジちゃんのお母さんと同じ事を先生に伝えて、出来る限りのわがままをしてあげました。
病院嫌いで、家族以外にはなつかない子だったので、出来る限り母と一緒に大好きな抱っこをいつもしてあげようと。

家族みんなで何度も話しました。
辛い決断でした。
ジジちゃんのお母さんの気持ちが痛いほど解ります。
こんなにも愛してもらっているジジちゃんは幸せだと思います。
どうか涙を拭いて。
一瞬一瞬を大切にお過ごしください。




Kica manager (2009/12/15 4:27 PM)
みなさん、本当にありがとうございます。

コメントをいただくたびに
涙がとまらなくなって…
情けない店主です。


*TARAさん*

いつも気にかけてくださってありがとうございます。
パートナーもTARAさんの温かくも心強いコメントを読んで
涙しておりました。

忙しさの中で
ジジと過ごす時間もなかなか大事にできない毎日ですが、
今やってあげられるベストを尽くそうと思います。


*emiriさん*

大切なものを失う悲しみ、
それを乗り越える強さ、
よくご存知のemiriさんだからこそ
短いコメントの中に深い優しさを感じました。
いつもありがとうございます。


*かがみゆうさん*

そうだったのですね。
いつも一生懸命で明るく楽しく活動されているかがみさん、その理由がわかったような気がしました。

「代わってあげたい」
そのお気持ち、痛い程わかります。

私も、かがみさんのように
時間を大切に、丁寧に暮らしていきたいと思っています。
いつも本当にありがとうございます。


*さくらさん*

私もさくらさんからのコメントを読んで、
涙がとまりませんでした。

ジジの病気を調べるうちに辿り着いた、
とても素敵なブログがありました。

美しく丁寧に綴られた言葉の数々にどれだけ励まされたか、はかりしれません。

その方と猫ちゃんとの生き方を最後まで読み、
私は自分がとるべき対応を決断しました。


もしかしたら、そのブログは
さくらさん(あるいはご家族の)のものではないのかな…なんて勝手に推測しています。

そうだとしたら、
いやそうでなくても、
ひとつひとつの言葉に本当に大きな力をいただきました。

本当に感謝してもしきれません。
本当にありがとうございます。

















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