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2002年のさくらんぼ

さくらんぼ1


ある休日の朝。
雨戸を開けて、息をのむ。
毎年変わらぬ風景なのに
決まって歓喜の声をあげ、
町中のドアを叩いてまわりたくなる。

「うちのさくらんぼが満開なんです!」


庭に植えた小さな苗木は
早いもので10歳の春を迎える。

水彩画のように淡く、
砂糖菓子のように柔らかな花たちは
毎年変わらず私の心を癒してくれた。

「また、季節が巡ってきたんだな」。

夙川が誇る桜たちも、ほどなく見頃を迎えるだろう。



街に漂う春の香りを嗅ぎ取ると
どうしても蘇る思い出がある。

いつか
笑って話せる時がやってくるだろうか。

忘れたくても忘れられない、
たぶん人生でいちばん辛かった
あの春のことを。


10代からずっと一緒に過ごしてきた、
Kicaを共に始めた親友が
私の世界から突然消えて無になった、
あの春の日のことを。



待ち遠しかった季節の到来、
でも頬をなでる風の温もりも
透き通る空の青も
心躍る音楽も
川沿いの宴の風景でさえ
果てない悲しさに溢れていた。

いつのまにか桜は散り、
日差しは日増しに強くなった。
それでも時間は
あの春の日を最後に
止まったままの気がしていた。

そんなある日。
久しぶりの休日に、
普段は開けない雨戸を開けた
その瞬間
あまりの感動に言葉を失った。

庭の苗木が
植栽から3年目にして、
生まれて初めて実をつけていた。

まだ細い枝いっぱいに
大陽の光を照り返しながら輝く
鮮やかな赤い点々を見た途端、
曇りきった心に
すーっと明るい光の筋が舞い降りた気がした。

忙しさのあまり庭を見る余裕もなく、
手入れはおろか、その存在すら忘れていた。
それなのに、きっともう何日も前から
ずっと見つけてもらうのを
ただ静かに待っていたのだろうか。

手の中でふたつ、仲良く並んだ赤い実は
思わず顔をしかめるほど酸っぱくて
食べれば食べるほど涙が出た。

まるで奇跡のように実をつけたさくらんぼは
以来、期待を裏切ることなく
毎年可愛い実をたわわにつけた。
酸っぱかった実は年々甘さを増し、
私や小鳥たちを歓喜させてくれている。
赤い実をつけた枝を持って
ご近所に配ってまわるのも楽しい年中行事になった。


あのとき
自分に必要だったもの。
彼女に必要だったもの。
今でもふと考える。
でも、もうそれらを探すのはやめることにした。
酸っぱすぎる答えは
私も 彼女も
もう充分に噛み締めたはずだから。

しばらくは、
熟しすぎた果実のような妖艶な香りと
対照的な優しい色、それを照らす幻想的な灯り、
そして雪のように舞い散る花弁,
苦楽園の春を
思う存分楽しんでいようと思う。


きっと彼女も
新しい季節の訪れをどこかで目にしていることだろう。

いつか
この店の窓からいっしょに見たさまざまな風景を
もう一度、一緒に見ることができたなら…。
ただただ夢のようなその日を信じ、
今日も店にたとうと思う。

さくらんぼ3
| Posted by kica2001 | I think! | comments(10) | trackbacks(0) |




ミーキ (2008/03/25 11:51 PM)
ここまでくるまで、紆余曲折だったのですね。
他人と一緒に仕事をするというのは、本当にたいへんだとおもいます。キカさんも色々な事があったのでしょうが、これからも良い店作り、良い雰囲気作りをこえからもがんばって下さい。
私はそんなキカが大好きです。

kica manager (2008/03/26 12:00 AM)
ミーキさん、びっくりしました。
ありがとう。

あの時、ずっと離れずただそばにいてくれた仲間たちが
今の私のすべてだと思っています。
苦労話を誰かに聞かせたかったわけでは決してないのですが、
この季節になるとつい思い出してしまうことを
つれづれなるままに綴ってしまいました。
まだまだ半人前で嫌になってしまいます。

思いもよらない重みのある言葉、
改めて噛み締めて…これからも突っ走らせてください。
いつも見守ってくれてありがとう。


mii (2008/03/27 10:34 AM)
私の知るすてきなひとは、皆なにか大きな事を乗り越えています
kica、そしてオーナーの魅力は、きっとそこからたくさんの原動力をもらっているのですね

kicaの中に、いまでも生きている
たくさんの出会いや、別れも
みんな見守ってくれている
そんな、暖かいお店の雰囲気はきっと彼女のおかげなのかもしれませんね

ますますkicaが大好きになりました
これからも、彼女といっしょに
そして、kicaファンのために
自分らしく突っ走ってください

いつまでも、ついていきます



kica manager (2008/03/27 11:55 AM)
miiさん
店にいながらmiiさんからのコメントを読み、
思わずポロポロ泣いてしまいました。ダメダメ店主です。
乗り越えたと思ってもやっぱり後戻りして、
なかなか前に進めない…つくづく弱い自分に嫌になる日々です。
たくさんの数知れない人々に支えられて生きていることを
忘れないように、大切に日々を送っていきたいと改めて思いました。本当に本当にありがとう。
今日、miiさんから頂いた言葉、宝物にしますね。

はな♪ (2008/03/28 1:12 AM)
何度も開いては閉じ 書いてみては消し
多分支離滅裂な文になると思いますがコメント残させてくださいね。

とても淡いかわいいさくらんぼ。
10年でとても立派になるんですね。本当に綺麗!
雨戸を開けたときの実を付けていた感動
それは言葉にならないものだったと思います。
だからこそ Kicaさんにとってさくらんぼの木には深い思い入れがあるんでしょうね〜
様々な後悔や自分が嫌になること よくあります。
でも、それも含めて全部今の自分なんですよね。



Kicaのお店は 前の薬屋さんがあった時から
ある時薬屋さんがなくなり工事中〜よくお店の前を通っていました。
なので私にとってとても愛着のあるお店なんです。
関西の雑貨屋さんでは一番足を運んでるはずです 笑。今までも これからも。
とても温かく 居心地のいいお店。
そして こうやってKicaさんの生活や感情を知ることが出来ますます大好きになりました。
人間ですもの。弱い所ありますよ〜
進んだと思っても また振り返ってみたり。。。
でもそんな時は 自分の心に正直に労わってあげてくださいね。

お花見楽しみにしています。
完全防備で行かなくては 笑。


kica manager (2008/03/28 10:49 AM)
はな♪さん
薬屋さんの時代から工事、開店当初を知る方は
今のお客様のなかにはほとんどいらっしゃらないんだろうと
思っていました。驚きました。
二人いたはずの店主がある日とつぜん一人になって、
街中が花見客で最高に賑わうなか、
Kicaカフェはクローズしたまま…。
その理由を沢山の方に何気なく尋ねられるたびに
胸をえぐられるような気持ちになり、
居心地のよかった店は一転、恐怖の場所になっていました。
数えきれないほどの人々が我慢強く励ましてくださり、
支えてくださったことで、今のkicaがあることを
春がくるたびに噛み締めています。

開いては閉じ、書いては消し…。
はな♪さんが一生懸命コメントしようとしてくれていること、
超能力で感じていました!
普段、交わす言葉は少なくても、
はな♪さんの優しさや温かさは
なぜか強力に伝わってくるのです。
こうしてお話できるようになったことに
不思議な運命のようなものを感じています。

人それぞれにいろんな春がありますね。
幸せの前に訪れるさまざまな壁。
それぞれの冬を乗り越えて、やがて訪れる春。
いつも皆さんからもらってばかりの私ですが、
いつか微力でも誰かを支えられる人になりたい。
はな♪さん、本当にありがとう。
これからもどうぞよろしくお願いします。
まずはお花見☆ いつも寒さに泣いているので
今年は厚手のコート、引っ張りだして出かけます!


マック (2008/03/28 11:53 PM)
お久しぶりです。
最近、週末でないとそちらにいくことが出来ません。
kicaさんには私が始めて関西に来たときから、優しくして下さった思い出がたくさんあります。
今まで一度も関西にきたことがなく、これから関西で生活するというまっさらで、少し怖かった気持ちを、とても暖かな気持ちにしてくださいました。
その日からずっと大好きなお店です。
いろいろなことがあると思いますが、がんばりすぎないで、いてください。
長くなってすいません。
これからもよろしくお願いします。

kica manager (2008/03/29 6:50 PM)
マックさん
初めてお会いした時のこと、よく覚えています。
確か雨が降っていましたよね。
マックさんは、7年前の開店当初から今日まで、
楽しい時も辛い時もいつも側で力になってくださった
とても大切な存在。
お互い、いろいろなことがありましたが
これからもずっと元気なお顔が見られることを
心から願っています。

ここ苦楽園は転勤族が多く暮らす街。
毎年、さまざまな出逢いに恵まれますが、反面
せっかく仲良くなった方とお別れすることも多く、
その度に切ない気持ちになります。
どうかマックさんは転勤しないでくださいね!

「がんばりすぎないで」
母が私によく言う言葉です。
家族のような温かい気持ちを本当にありがとう。
こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いします!





ポンコ (2008/04/07 12:33 PM)
とても久しぶりに苦楽園のキカさんに先日寄ることができました。 そして何ヶ月ぶりかで開けたキカさんのホームページ。
私の原点である苦楽園、思い出があふれ出しそうで切ない苦楽園。この時期の華やかな夙川は初めてで私が知っている夙川はセピア色で 寂しげなイメージしかなかったので いつもと違う顔だな…なんて思いながら見入っていました。
キカさんのお店素敵です。そして私が何より ステキだといつも思うのはオーナーさんの「ありがとうございます」って言う言い方。なんとも かわいらしく 私も密かにマネしてみたり…
言葉は交わしたことありませんが次にお店によれたならば思い切って話しかけてみたいものです。
ブログも楽しみにしています。

Kica manager (2008/04/07 2:41 PM)
ポンコさん、本当にありがとうございます。
もしかしたら…
週末に4人でカフェを利用してくださった若い方かな(違っていたらごめんなさい)。
この週末は、近年稀にみる絶好の花見日和に恵まれ、
普段は静かな苦楽園も、
まるで別の街のようににぎわっていました。
久しぶりにKicaを訪ねてくださった方も多く、
言葉は交わしたことがなくても
お客様のお顔はしっかり胸に刻んでいるので、
来てくださったことに心から感謝しておりました♪

ぜひ、お気軽に話しかけてみてください。
ご来店いただいたことを内心では歓喜しているのですが
ゆっくり見ていただいた方がいいかなという思いから
こちらから話しかけることを遠慮していることも多いのです。

ぜひ今後とも、どうぞよろしくお願いします♪










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